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東方Projectの二次創作。
サイトのものとは方向性が違うので、こっちで晒してみる第五弾。


・練習として書いたシロモノ。
・フランドール×魔理沙…かなぁ。
・魔理沙とフランドールが入れ替わる話。短い。色々ややこしい。
・誰てめぇ

上記の内容でokな方は 「Read More...」 ↓からどうぞ。

  


 右手に魔力を。
 白い白い光。月光のように淡く、ささやかな光が浮かぶ。
 白黒魔法使いの右手に。

 左手に魔力を。
 紅く赤い光。炎のように激しく、煌々とした光が浮かぶ。
 悪魔の妹の左手に。

 右手と左手は、そっと指を絡めながら重なる。掌に宿る二つの力が混ざり合った。

 全ては、事の始まりは単なる好奇心から。探究心も少しはあったかもしれないが、結局は面白そうだからの一言で片付けられてしまう。

 ぐるぐると、ドロドロと、二者の作り出した力は交わっていく。溶けた飴のように粘性を帯びた濃密な魔力。相反するようで近しくもある二つは、ゆっくりと混じり合い一つに成る。

 その過程で────ほんの少し、僅かなズレが生じてしまった。それは小さくも致命的なもので、亀裂を走らせるには充分だった。

 崩壊は一瞬。音もなく爆ぜた。

「「!?」」

 溢れ出す光が一刹那で室内を染め上げる。反射的に目を瞑った二人。

 重ねていた手がバヂッと弾かれるように離れたことと、見えない衝撃波が二人に襲い掛かったのはほぼ同時だった。

 それぞれ後方に大きく吹き飛ばされる。

 受身を取る暇もなく地を転がった魔法使い──霧雨魔理沙は両手をついて、身を起こした。軽く頭を振りながら、閉じていた瞼を開く。

 網膜を灼いた閃光は既に無くなっていたが、魔力の残滓なのか薄い霧が視界を埋め尽くしていた。

「フラン…」

 先程まで手を重ねていた相手、フランドール・スカーレットの姿を魔理沙は捜す。

「大丈夫か、フラン?」

 そう声を発したところで、ふと何かが引っかかった。が、気に留めない。それより今はフランのことだ、無事を確認しないと。そう思い、魔理沙は立ち上がった。

「フラン!」

 声を上げる。手で払う霧は徐々に晴れていき、やがて消失した。そうなったことで魔理沙は視界に捜し求めた姿を捉えることができた。

「え……?」

 捉えることができた──のだが、見た瞬間に固まる魔理沙。驚きに彩られた表情で目を瞬かせる。

 そこにいたのは “霧雨魔理沙” だった。

「魔理沙?」

 その “霧雨魔理沙” が自分の名を口にした。


  ◆


「入れ替わった……?」

 何やってんだという風な呆れる表情を隠そうともせず、一連の流れを聞いたレミリア・スカーレットはそう反応した。半眼で見つめる先には、実の妹と白黒魔法使いが並んで立っている。

 彼女達の話によると、とある魔法を協力して行っていたが失敗し、その影響で互いの精神が入れ替わってしまったらしい。フランドールの体に魔理沙が、魔理沙の体にフランドールがという具合にだ。外見的にはいつも通りであるが。

「フラン」

 レミリアが呼ぶと 「なぁに?」 と魔理沙が返す。

「…魔理沙」

 続いて呼べば 「確認したい気持ちは分かるが、事実だぜ?」 とフランドールが返答した。

「…………」

 レミリアは思わず眉間に刻んでいたしわを解すように指先を持っていく。

「お姉様?」

 そんなレミリアを覗き込んで窺う魔理沙の姿をしたフランドール。その仕草自体はいつもの彼女のそれである。しかし魔理沙の姿で、魔理沙の声で呼ばれると、レミリアは正直複雑な気持ちを抱かずにはいられなかった。

 いや、いやいや待て待て。

 いくら外見が違おうと、間違いなく中身はフランドール、我が妹である。ならば姉としてどうするか、そんなことは決まっている。そう、簡単なことだ。

 レミリアは、そっと両腕を広げた。そして招く。

「フラン」

「!」

 姉に呼ばれて、魔理沙 in フランドールはぴくりと反応した。レミリアの動作で察したようで、同じように腕を広げて正面から抱きついた。柔らかく受け止めるレミリア。

「あら、魔理沙の体って抱き心地がいいのね」

「そうだよー、魔理沙はあったかくていい匂いがするの!」

 レミリアはフランドールの頭を撫でる。

 そんな二人が抱き合う姿を見ながら、姉妹の会話を聞きながら、何とも言えない表情を浮かべているのはフランドール in 魔理沙だ。

 何しろ自分とレミリアが仲睦まじく抱きしめ合っている光景を第三者の視点で見ているのだ、言葉にできない微妙な感情を抱いても仕方なかった。

 そのまま魔理沙が一人で突っ立っていると、レミリアがちょいちょいと手招いた。

「……?」

 なんだよ?と言いつつ、魔理沙はレミリアへと歩み寄る。途端、背中に片腕を回され抱き寄せられた。

「──っ、レ、レミリア!?」

 驚く魔理沙。

 レミリアはフランドールと魔理沙を一遍に抱き寄せたまま、言う。

「その声でそう呼ばれたくないわ。ちゃんとお姉様と呼びなさい」

「はぁ…? あのなぁ、私はフランじゃないんだぜ?」

 言いながら身を捩る魔理沙だが、片腕だけの拘束なのに抜けられなかった。ナイトキャップごとレミリアに頭を撫でられて、撫でるなー、と頭を動かし抵抗するが芳しくなく。脱出は仕方なく諦めた。

「それで、どうやったら戻るのかしら」

「あー、それは考えなくても大丈夫みたいだぜ。お前に会う前にパチュリーに話したら、時間が経てば戻るって言ってたからな。体が本来の精神を求めるとか」

「そう」

 レミリアは安堵の表情を浮かべてから、

「──それにしても、この状態は面白いことになるかもしれないわね」

 ニヤリと鋭い犬歯を覗かせる。

 魔理沙は訝しげにレミリアを見て、フランドールは小首を傾げた。



「さーくーやーっ!」

 紅い廊下に魔理沙(フランドール)の声が響く。

 バッと両腕を広げ、フランドールは走る勢いそのままに、掃除中のメイド長──十六夜咲夜の背中へとタックルを敢行した。

「きゃぁ!?」

 背後からの強襲に悲鳴を上げる咲夜。それでも手にしていた掃除道具を落とさず、タックルの衝撃を巧く流した点は、流石はメイド長といったところか。

 咲夜は振り向いて、抱きついてきた人物を見遣った。その姿を認め、目を丸くする。

「魔理沙?」

 白と黒の服装、とんがり帽子の下から咲夜の顔を覗き込むのは霧雨魔理沙だ。ただし、今は中身がフランドールである。フランドールは、えへへと咲夜に擦り寄り。ふにゃっ、とした笑顔を向けた。

 あ、かわいい。

 そう咲夜は思う反面、何か悪いキノコでも食べたのかと考えた。

「魔理沙」

「私は魔理沙じゃないよ?」

「……え?」

 咲夜は目を瞬かせる。小さく首を傾げながら、まじまじと目の前の人物を見つめた。当然ながら、どう見ても魔理沙にしか見えない。

 混乱すると同時に、いよいよ毒キノコが中ってしまったのか可哀相な子……と、思わなかった。自分を見るレミリアとフランドール(魔理沙)の姿を見つけたからである。

 やや離れた位置にいる二人、楽しんでいる様が見て取れた。何かあると思わざるを得ない。

 咲夜は内心で溜息をつき、視線を戻して問う。

「魔理沙じゃないなら、誰?」

「当ててみて、咲夜」

 にっこり笑って、弾んだ声で言うフランドール。

 咲夜は頤に手をあて、考え込んだ。一秒、二秒と時が進み────フランドールが焦れた。ぴっと人差し指を立てる。

「ヒント、フから始まる!」

 その言葉を受け、咲夜は閃く。フから始まる名前。それは此処、紅魔館に於いて一人しかいない。ちらりと一瞬レミリアの隣に立つフランドール(魔理沙)を見遣ってから、口を開いた。

「フランドール様…」

「うんっ」

 フランドールは目を輝かせ、満足そうに大きく頷く。

「咲夜がびっくりして目を丸くするなんて、珍しいものが見れたな」

「まさか、そっちが魔理沙?」

「魔理沙さんだぜ」

 そう肯定しながら歩み寄ってくる魔理沙の背中で、パタパタと七色の翼が動いていた。咲夜は呆れ半分訊ねる。

「何があったの」

「私とフランが入れ替わっちゃっただけだ」

 軽く言って、事の経緯を簡単に説明した。話を聞いた咲夜は、まったくと息をついた。

「何してるのよ、貴女は」

「別に何もしちゃいない、不幸な事故なんだぜ。……ところで咲夜、いつまで撫でてるんだ?」

「え……? あっ」

 指摘されて、咲夜の手が止まる。無意識で撫でていたフランドールの頭。

 フランドールは、にふーと緩んだ表情で咲夜の掌を受け入れていた。それを見て、咲夜は魔理沙の方にも手を伸ばしてみる。撫でようとすると、ピクリと反応する魔理沙。

 咲夜は呟く。

「なるほど…」

「変な確認の仕方をするなよ」

 魔理沙は唇を尖らせた。咲夜は微笑んで、フランドールへと視線を戻す。

「せっかく入れ替わってるなら、普段できないことをしてみてはいかがですか?」

「お、そうか。いいアイディアだぜ、咲夜!」

 その言葉に真っ先に反応したのは魔理沙の方だった。フランドールに目を向ける。

「フラン」

 なに?という風に首を傾げるフランドール。魔理沙はニッと歯を見せて笑みを浮かべた。

「外に行こうぜ!」

 唐突な誘いにキョトンとするフランドール、その手をとる魔理沙。そのまま手を引いて歩き出す。

 そうして残された咲夜へと、レミリアが近づいた。

「咲夜、紅茶を用意して頂戴」

「かしこまりました、お嬢様」

 主人の命に咲夜は恭しく応じ、次の瞬間には掃除道具ごと姿を消していた。



「魔理沙。外って、太陽出てるのに」

「わかってる、だから行くんだ。今のフランなら何の問題もないだろ? 人間わたしの体だからな。私は……レミリアの日傘を借りるぜ」

 ちゃんと返せよ、とレミリアが言いそうである。

 フランドールの手を引いて館内を進んだ魔理沙は、正面玄関に着いて借り物の日傘を広げた。それを肩と片手で支え持ち、もう一方の手で外へと続く扉を開ける。

 フランドールの瞳に陽光に照らされる光景が映った。

 外界から射し込む光は床にすっと伸び、絨毯の紅をより鮮やかに彩る。暖かさを感じさせる陽射しだが、吸血鬼が抱く印象は人間とは別だ。

 外に行く、それだけのことでフランドールは緊張していた。体は強張り、掌に汗をかく。両足は縫い止められたように動かなかった。

 紅魔館から出ることなど殆どないし、ましてや日傘もなしで昼間に外出したことなどあるはずもない。正真正銘、未体験のことだった。

 ドクドクと内側から鼓動が大きく響く。吸血鬼の肉体でないとわかっているが、踏み出すことを躊躇ってしまう。そんな彼女に手が差し出された。その手の主を見る。

「フラン」

 魔理沙が呼ぶ。一緒に行こう、と誘うように。頼もしい笑みと共に差し出されたその手に、フランドールの指がピクリと動いた。そっと窺うように見る。

 魔理沙は掌を見せたまま、その手をとるのを待っていた。

「……」

 フランドールはおずおずと手を伸ばす。掴むと、しっかりと握り返された。行くぞ、と繋いだ手を引かれる。すると、先程までの停滞が嘘のように軽く一歩を踏み出していた。

 そのまま躊躇を振り切るように、外へ向かい飛び出した。

 内と外の境界線を越える、光の中に突入する際にぎゅっと目を瞑ってしまう。しかしフランドールが止まることはない。魔理沙の手を離さず、彼女に連れられるままに往く。

 そうして 「フラン」 と呼ばれて、目を開けた。

 フランドールは青空の下、立っていた。日傘もなく、太陽の光を遮る雲もない状況で普通に立ち続けていられた。

「うわぁ……」

 感嘆の声が漏れる。太陽を見て、眩しそうに目を細める。掌を翳した。

「どうだ、フラン?」

「……うん、あったかい」

 答えて、日傘を差して隣に立つ魔理沙に目を向ける。

「ぽかぽかするってこういうことなんだね」

 フランドールの言葉に魔理沙は微笑みを浮かべ、フランドールも笑顔を返す。二人して笑いあった。



「めーりーんっ!」

 紅魔館の門番──紅美鈴は死角からの接近にハッと目を見開いた。断じて眠っていたのではない、いわゆる一つの精神統一。瞑想とかそういうものだ。暖かく心地良い陽気に誘われれば、人間も妖怪も精神統一したくなるのだ。

 その精神統一を妨げる存在の気配に、反射的に動く美鈴。瞬間、真横の空間をフランドールが突っ切った。

 突撃を躱されたフランドールは止まれず、そのまま地面に突っ込んだ。

「痛い」

「え、あ、魔理沙? 大丈夫?」

 半身捻って回避した美鈴は知り合いと気づいて、声をかける。フランドールは両手をついた。

「あは、避けるんだ……」

 ゆらりと立ち上がり、指を曲げて拳を握る。

「……? あ、そっか。魔理沙ー」

「おー、どうしたー?」

 パタパタと両翼を動かし、日傘をくるりと回しながら魔理沙がフランドールの傍に降り立つ。

「え? え?」

 美鈴の視線はフランドールと魔理沙の間を行ったり来たり。目の前で行われる二人のやりとりを見ながら、腕を組んだ。

「えーと……」

 反応を窺いながら確認する。

「妹様、ですか?」

「そうだよー」

「魔理沙?」

「そうだぜ」

 入れ替わっていることを知る。どうしてこんなことに、美鈴はそんな表情をした。彼女に、フランドールはいつもの無邪気さで言う。

「美鈴、遊ぼっ!」

「え。遊び、ですか……」

「うん、私とあ・そ・ぼ♪」

 ニヤリと口角を上げるフランドールの手に、ボッと音を立てて輝きが灯った。



「二人相手なんて無理ですよぉ~……」

 ぼろぼろになり、ぐんにょりと大地に伏した美鈴が嘆く。フランドールと魔理沙はハイタッチし、その手を美鈴に差し出した。

 楽しかったと言って、それぞれ美鈴の手を取る。美鈴は二人の手を軽く握り返して、立ち上がった。

 ふぅ、と魔理沙が息を吐いた。

「魔理沙?」

 美鈴は微細な変化を感じ取る。

 顔を覗き込まれた魔理沙は、ひらひらと手を振りながら何でもないと示した。

「そうだ。フラン、テラスでちょっと待ってろ」

「うん?」

 首を傾げるフランドール。そんな彼女の頭を一撫でし、魔理沙は日傘を持ち直すと、背中の翼を動かして飛んで紅魔館内に入っていった。

 頭にクエスチョンマークを浮かべながら見送ったフランドールは、とりあえず魔理沙の言った通りテラスに行こうと考える。その前に、と美鈴に向き直る。

「美鈴、お仕事頑張ってね」

「はい」

 門番のいい笑顔に見送られ、フランドールは飛び立った。テラス──にいるレミリアの許へ。

「お姉様」

 降り立つそこでは、レミリアが一人紅茶を嗜んでいた。

「楽しめたみたいね、フラン」

 妹の帰還に、瞳に優しい光を揺らす姉。頭を撫でられたフランドールは笑顔になる。

 ちょうどそこに魔理沙が戻ってきた。二人の傍に着地する。

「何処に行ってたの?」

「パチュリーのところにな」

 それだけ答えると、魔理沙は明後日の方向に視線を投げた。そんな彼女に倣うようにフランドールも見遣ったが、そこには青い空があるのみだった。

「何かあるの?」

「ああ。今にわかるぜ」

 言葉通り、見ていると変化があった。

 晴れていた空の雲行きが怪しくなってくる。それはあまりにも急激であり、明らかに自然現象ではない。暗い色が不自然に青空の一部に位置取り、そして、涙を流した。あっという間に降り出すのは、雨。

「フラン」

「魔理沙、あれって…」

「今なら雨の中も行けるぜ」

 魔理沙の言いたいことはわかる。陽の光と同様のことを自分に体験させようというのだろう。

「……大丈夫かな?」

「ああ」

「……本当?」

「こればかりは私が行けないからなぁ。今度は背中を押すぜ」

 さっきは魔理沙が手を引いてくれたことをフランドールは思う。掌にその時の熱がまだ残っている気がした。

「今しかできないことだから、楽しんできなさい」

 レミリアが言う。

 フランドールはゆっくりと、うん、と静かに頷いた。二人に告げる。

「魔理沙、お姉様。行ってくるわ」

「おう」

「いってらっしゃい」

 ぎゅっと手にしている箒を握り、フランドールはテラスから飛び出した。その後ろ姿を見守るように穏やかな眼差しを向ける魔理沙は、ふとレミリアを見て──訊ねる。

「羨ましかったりするか?」

「しないわ。私は吸血鬼なのよ?」

 誇るような響き。永遠に紅い幼き月は、ソーサーからカップを持ち上げた。

「フランもそうだけどな」

「あの子はあの子、私は私よ」

「ふぅん」

「ところで、魔理沙は今しかできない体験をしないのかしら?」

「例えば何を?」

 そっと、自身が飲んでいる紅すぎる紅茶を見せるレミリア。

「今ならすごく美味しいわよ」

「遠慮しておくぜ」

「つまらないわね」

「面白さは必要ないと思うけどな」

「私がつまらないの。……じゃあ、そうね。魔理沙」

「なんだ?」

 レミリアはカップを置き、その手を伸ばして魔理沙を抱き寄せた。レミリアの胸に顔を埋める形になった魔理沙はもがく。

「またかっ」

「大人しくしなさい。太陽のせいで少しだるいんでしょ?」

 その一言に、魔理沙の抵抗が弱まる。

「……お見通しってわけか」

「まぁね」

 魔理沙は完全に力を抜いた。

「ふぅ……。やっぱり吸血鬼は太陽がダメなんだな。フランはともかく、レミリアはよく日傘差しただけであちこち歩き回れるよな。何か特別なことでもしてるのか?」

 その問いに、レミリアは応えなかった。ただ、ぽつりと呟くように。

「レミリア、ねぇ」

「……お姉様」

 魔理沙は仕方ないという風に言い直す。

「特に何もしてないわ。強いて言えば気概と慣れかしら」

「なんだよそれ」

 さてね、とレミリアはフランドールが向かっていった場所を見遣り、大人しく抱かれている魔理沙の頭を撫でた。



 眼前には降り頻る雨。局地的なそれを眺め、フランドールは唾を飲み込んだ。そろそろと手を伸ばす。

「…っ!」

 指先に雫が当たった。

 皮膚の上を水が滑り落ちていく。冷たいだけで、何ともない。人間の体なのだから当たり前であるが、フランドールにとって思わず身を震わせるほどの衝撃と新鮮さだった。

 次々と落ちてくる水滴が指を伝う。

 両目を丸く見開きながら、フランドールは両方の手を前に出した。雨粒を掬うように掌を上向ける。透明の雫が掌の中心に溜まった。人差し指と小指、それぞれの付け根の部分から溜まった水が溢れ落ちる。

 その間にも雨粒は降り注ぎ、ぱたぱたと肌の表面を叩く。その様子をまじまじと見つめるフランドール。大きく見開いた目には好奇心の光が揺れていた。

 もう少し前へ。

 手首、腕にも雨が降り注ぐ。フランドールは空を仰いだ。自然と、口角が上がっていく。

「はは……」

 ぽとりと黒のトンガリ帽子が落ちた。フランドールの足が前へと進んだ。腕のみならず、金髪も雨が濡らしていく。雨の中だ。その事実に、彼女はいつの間にか笑い声を上げていた。

「あははははははっ」


  ◆


「まさか雨の中に突っ込むとは思わなかったんだぜ」

「あぅ……。ごめんね、魔理沙」

「……まぁ、いいけどな」

 喜んでいたのならば。

 紅魔館内、風呂に隣接する脱衣所で服を脱ぎながら魔理沙は思う。降雨の最中に突入してずぶ濡れになってしまったフランドールと共に、これから風呂に入るのだ。

「まりさぁ」

「んー? ……何やってるんだ」

 呼ばれて振り向けば、もそもそとうまく服を脱げないようでいるフランドールがいた。魔理沙は一つ息をついて、フランドールの脱衣を手伝う。脱げば当然、肌が露わになった。

「…………」

「……? どうかした?」

「いや…」

 緩く首を振る。

 目の前にある自分の裸身から視線を外す。照れなどもちろんないが、微妙な恥ずかしさがあった。変な具合であり、心持ちである。フランドールはそういうのはないのかと思考が過ぎるが、フォーオブアカインドなんかで慣れているのかもしれないと思った。

 それから思考を切り替えて、魔理沙はフランドールに言う。

「ほら、身体温めないと風邪ひくぞ」

「人間って弱いのね」

 そんな言葉を交わしながら、二人は風呂場に足を踏み入れた。



「魔理沙、くすぐったいよぉ」

 温かな湯気がたゆたう浴室にフランドールの声が響く。ごしごしと泡塗れの手拭いでフランドールの背中を洗う魔理沙。お湯で流して、よし、と完了。と、洗われたフランドールがくるりと振り向いた。

「今度は私がやってあげるね」

「あー、じゃあ頼む」

 翼の扱いもよくわからないから、フランドールに任せた方がいいだろうと魔理沙は判断した。

 背中を向ける。手拭いと指先が触れて、泡でぬめる。羽の付け根から沿うように。

「っ!?」

 瞬間、魔理沙はビクリと肩を震わせた。

「フ、フラン?」

「なぁに?」

「えと、ひぅっ」

 フランドールの手が動き、羽をなぞる度にぞくぞくとした感覚が魔理沙に走る。それは不快ではなく、むしろ心地良すぎるものだった。

「あ、ふっ……ぅうん」

「もう、逃げちゃだめだよ。魔理沙」

「や、ま、ふらんっ」

 身を捩る魔理沙の腰に片腕を回して、逃げられないようにするフランドール。魔理沙は耳まで赤くして、息を荒げ、瞳を潤ませて、抑えられない声を────。



「はぁ、えらい目にあったぜ」

 紅魔館、地下にあるフランドールの部屋にて魔理沙は呟く。パジャマに身を包み、ベッドの縁に腰掛けていると、フランドールが背後から呼ぶ。

「魔理沙、魔理沙」

「わかってるよ」

 振り返った魔理沙の目に、同じようにパジャマを着たフランドールがベッドの上に座り込んでいた。

「嬉しそうだな」

「嬉しいよ、だって魔理沙が一緒なんだから」

 笑顔でそう言うフランドール。ストレートに心を穿つ彼女の言の葉を聞いて、魔理沙は頬を掻いた。

「そうか」

「うん」

 フランドールは笑顔のまま頷き、ぽんぽんとベッドに入るよう促す。それを受けて、魔理沙は毛布を捲る。二人一緒にベッドへと潜り込んだ。

 そうして眠ろうとしたとき、魔理沙の手の甲に何かが触れた。

「フラン?」

 寝転んだ状態で、フランが手を握ってくる。

「えへへ」

 嬉しそうに笑う。魔理沙はそっと手を握り返した。

 体が睡眠を求めているのだろう。すぐにフランドールの穏やかな寝息が聞こえてきて、魔理沙も静かに目を閉じた。


  ◆


 翌日。目を覚ました魔理沙は、ぼんやりと天蓋を眺めていた。

 起きたのはいいが、地下なので時間帯がわからない。窓の一つも当然ながら存在しないので、昼夜の違いは視覚で確認不可能だった。

 なので魔理沙は、すっきりした目覚めなのでおそらく朝だろうと結論付けた。仰向けの状態から上半身を起こし、伸びをしようとしたところで────昨夜との差異に気づいた。

「!」

 寝る前と恰好が違う。手の大きさも、昨日と違う。

 ハッとして隣を見れば、そこにはフランドール──見慣れた、本来の姿のフランドールが眠っていた。ということは、戻った?

 魔理沙は自身の顔に触れる。髪を摘んでみる。たぶん自分の体だ、そう思う。

 一応確認のために鏡を探そうと思い、ベッドから降りようとした。が、その途中でくっと動きが止まる。

「ん?」

 ふと、振り向けば、自分の手が見えた。そして指を絡めて繋がっている小さな手へと辿り着く。と、眠っているもぞもぞとフランドールが動いた。

「んっ……ぅ、魔理沙ぁ?」

 紅の瞳が覗く。フランドールは甘ったるく間延びした声を出した。

 おはよ、と魔理沙が言うと、フランドールも眠たそうな声で挨拶を返した。寝惚け眼で魔理沙を見て、目を見開く。ぱちぱちと瞬き、ずりずりと寄った。ぺたりと魔理沙の顔に触れる。

「おお、どうした?」

「戻ってる」

 呟くように言って、フランドールは魔理沙に抱きつく。繋いだ手はそのままに、空いている片腕だけを背中に回す。

「いつもの魔理沙だー」

「フランもいつものフランだぜ。寝癖を直したらな」

 抱き返しつつ、魔理沙はフランドールの柔らかい髪を撫でた。






「あら、ちゃんと元に戻ったのね」
「まぁな」
「お姉様ー」
「ふふ、おいでフラン」
「仲いいよな」
「ついでに魔理沙も抱きしめてあげましょうか?」
「遠慮するぜ、お姉様…………あ」
「あら」
「ち、違うぜっ。これはただ昨日のあれでっ──」
「いいわよ、照れなくても。魔理沙もおいで、可愛い妹、抱いてあげるわ」
「言い間違えただけだから!」


  
2010.03.18 Thu l 東方Project l COM(0) TB(0) l top ▲

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