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 共同生活6日目 : 皆で過ごす最後の夜


 暗い空間には、静寂が満ちていた。
 確かに、そこには音は発生していないが、人の気配――存在している感じはあった。気配が、動いて空間に微かな風を起こしている。

「…………」

 明らかな人の呼吸の動き。空間に、待ち焦がれるようなジリジリとした気配が溢れていく。

「……それじゃあ、いくよ」

 そう、厳粛な声が空間に放り出された。瞬間、空間に緊張感が走り、満ちる。そして、声を出した主は行動に移った。

「――っせぇーの!」

 合図。声で勢いをつけるように、 『彼女』 は暗い中、壁に手を伸ばした。指先に何かが触れ 『彼女』 はそれを壁ごと叩く。――と、

 パッと、暗い空間を光が照らす。

 人工の光の下、全てが明るみに出る。次の瞬間、パーン!と音が響き、カラフルな紙吹雪が舞った。

「よっしゃー飲むぞー!」

 用の無くなったクラッカーを放り捨て、 『彼女』――杉浦碧はこれからの自分の行動を高らかに宣言した。

「って、ダメだって言ったじゃないですか!?」

 そう言って、高村恭司は碧が掴んだボトルを渡さないように阻止すべく、自身の両手でボトルを引き止めた。

「まぁまぁ良いじゃないの。パァーっと騒ぐにはお酒の力も必要さぁ。ほれほれ、恭司くんもどう?」
「そう言って他の人にも勧める気ですか」

 恭司と碧、二人は互いにボトルを自分の方に引き寄せようとする。傍から見ると、まるでボトルを取り合っているようだ。

「んん? ああ、なつきちゃんやミコトちゃんに飲ませたこと? もう、それぐらい良いじゃない? 皆で楽しまないと」
「それがダメだって言ってるんです。彼女たちは未成年なんですから」

 恭司の言葉に、碧は不満そうな、拗ねるような顔をした。が、すぐにその表情を崩す。

「わかったよ、恭司くん」

 ふっと笑む。

「杉浦碧、正義の味方はここに誓う! 皆にお酒は飲ませない!」
「本当に?」

 確認する恭司に向かって、碧は大きく頷いた。

「もちろん、正義の味方は嘘など言わない!」
「……わかりました。ただし、碧先生も飲みすぎないでくださいよ」

 恭司がボトルから手を離すと、碧はボトルを勢いよく自分の懐に攫い、栓を開け始めた。

 ボトルのままで飲む気じゃないだろうな、と恭司は思ったが、碧はボトルを傾けてグラスに酒を注いでいた。
 その様子に、ひとまず安心する。――と、

「――恭司さん」

 背後から声をかけられ、恭司が振り返ると、鴇羽舞衣がいた。彼女の瞳には強い輝きがあり、昨日の風邪の影響は残っていないようだった。

「早く食べないと恭司さんの分、なくなっちゃいそうなんだけど……」

 舞衣にそう言われて、恭司はテーブルの方を見る。そこには、尋常じゃない速さでご飯をかき込む美袋ミコトの姿があった。

「本当だな、よっと」

 恭司はミコトの前に座り、このパーティ――最後の夜の宴――のために作られた料理の数々を口にしていく。

「恭司、恭司! これもうまいぞ、食べてみろ!」

 ミコトが進めてくる料理にも手を出しながら、恭司は食べすすめていく。そうして、ついついミコトと同じペースで食べてしまい、

「…………」

 満腹になるまでそう時間はかからなかった。

「何をやってるんだ、お前は。ミコトに合わせるなど……普通は自分のペースで食べるものだろう。――ほら、お茶だ」

 恭司の行動に呆れつつも、玖我なつきは彼の前に湯飲みを置いた。そして、横に座る。

「ありがとう、なつき」

 恭司が微笑んで礼を言うと、なつきはぷいと視線を逸らした。照れているようだ。

「恭司く~ん」

 声と共に、恭司は両肩に衝撃を受けた。酒の匂いが強く漂ってくる。

「恭司くぅん……一緒に飲もう~? 美少女のお酌だよ~? さぁさぁ、今夜は飲むぞー」

 長くなりそうな夜だ、と恭司は思った。




 時間が経ち、夜も更けて。



「…………」

 恭司は一人、物思いに耽っていた。何を言うこともなく、静かに心中と脳をめぐらせている。――ふと、

「恭司くん」

 片づけが終わったテーブルを前に座っていた恭司に、グラスを持った碧が近づいてきた。

「碧先生。すみません、起こしちゃいましたか」

 舞衣もなつきもミコトも、騒いで疲れたのかもう寝ている。恭司も先ほどまで寝ていたのだが、目が覚めてしまい起きてきていた。

「いやいや恭司くんのせいじゃないよ。あたし、ちょっと水飲みに起きてきただけだから」

 言って、グラスを少し傾けてみせた。

「……恭司くん、前、いいかな?」

 わざわざ訊いてくる碧に、恭司は頷いた。カタンと小さく音を鳴らして、碧は椅子に座った。

「どうしたんですか?」
「……恭司くんが考えてることを、あたしも考えてる」

 碧がテーブルの上に置いたグラスの中の氷が、カランと音をたてる。

「恭司くん、恭司くんが真面目で誠実な人だってことは分かってる。あたしだけじゃなくて、みんなね」

 碧の瞳は、真剣な色を湛えていた。

「だから、本気で考えてくれてるってことも分かるの。その上で、あたしは恭司くんに言う」

 真っ直ぐに、碧は恭司を見つめる。

「あたしは恭司くんの正直な気持ちが知りたい。純粋な、ハッキリとした心が知りたい。これはきっとあたしだけじゃなくて、皆そう。舞衣ちゃんもなつきちゃんもミコトちゃんも」

 一息ついて、言葉を継ぐ。

「今、恭司くんの中にある気持ちでいいの。だから無理しないで。あたしたちは恭司くんを悩ませたいわけじゃないから。あたしたちが勝手に恭司くんを好きなだけなんだから」

 碧は言うと、すっかり汗をかいたグラスに手を伸ばして、その中身を一気に飲み干した。

「いろいろ勝手に喋っちゃってごめんね。あたし、寝るから」

 碧は椅子から立ち上がり、キッチンでグラスを洗う。そしてベッドに行く前に、恭司の方に振り向いた。

「睡眠は大事だよ、恭司くん」

 一言。いつもの明るい表情で言い、碧は去っていった。それを見送り終わっても、恭司はまだ、立ち上がれなかった。


続く。
2008.10.06 Mon l SSネタ l COM(0) TB(0) l top ▲

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