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 共同生活1日目 : 役割分担と得手不得手


「これは……」

 放課後、一週間分の着替えや仕事に必要なものなどを詰めた鞄を持ち、高村恭司は建物の前に立っていた。

「うっわー、真白ちゃんもやるねぇ」

 恭司と同じように大きな鞄を持った杉浦碧も、目の前の建物を見て思わず声を上げる。

 彼らの目の前に建っているものは、女子寮だった。
 正確には、増築された女子寮の新たな部分。それは、一見すると隣に新しく建てられたものに思えた。

「昨日の夜から造ってたのってコレだったんだ……」

 女子寮住まいの鴇羽舞衣は、自分の家の隣に新しい家ができた時のようなことを言い、これから住むところを眺める。

 因みに、女子寮の工事を担当したのは珠洲城建設だとか。

 閑話休題。

「昨日からだと? 大丈夫なのか、この寮は」

 玖我なつきは眉を寄せ訝しげな表情で、尤もなことを言った。

「まぁとにかく、入ろうか」

 恭司の一言に促され、全員が一週間生活する寮へぞろぞろと入っていった。



 まず、入って、その広さに全員が驚いた。
 一室に全員分のベッドがある。それでもゆったりとしているほどのスペースが存在し、寮とは思えない大きさのキッチンも完備されている。
 そしてどうやら、風呂も付いているようだった (恭司たちからは見えなかったが) 。

「舞衣、ここは私たちの部屋に似ているな」

 美袋ミコトがそう言ったことで、舞衣は似ているという意識を持って部屋を改めて見渡してみた。

「そうね、似てる」

 もちろんそれは同じ寮だからだろう。大きさこそ違うものの、ちゃんと寮らしい雰囲気が部屋にはあった。

「さぁて……」

 一人、最初に部屋に入った碧は、くるりと回って皆の方を向いた。そして、視線を一人ずつ順に巡らせる。

「見たところ明確な個室ってのは無さそうだし、まずは誰がどのベッドで寝るのかを決めちゃおうか」

 ニヤリとした笑みを伴って言われた言葉。それに、恭司を除く全員が反応した。
 一瞬で、その全員が戦いモードへとシフトする。恭司を置き去りにして、素早く碧の元に集まった。

「あ、恭司くん。恭司くんは当然、真ん中ってことだから」

 碧にそう決定事項を言われ、恭司は発言することができなくなった。
 大人しく、並んだベッドの真ん中へと歩いていき、縁に腰掛ける。鞄をその傍に置いた。
 そして、ジャンケンという名のバトルを始める少女たち――1名は自称――を黙って見守ることにした。



「よっしゃー、次いってみよー!」

 死闘の後。見事、恭司の隣――彼から見て左側――を勝ち取った碧は、元気よく仕切りを続行する。
 因みに、恭司から見て右のベッドは近い方から舞衣とミコト、左は碧となつきになっている。
 今は皆、それぞれ自分のベッドの近くに荷物を置いて、恭司のベッドの傍に集まるようにいた。

「舞衣~……お腹すいた」

 ミコトは元気のない声で言いながら、舞衣の服を掴む。それを見て、碧はピコーンと閃いた。

「ミコトちゃんいいこと言った! あたしもお腹すいてきたし、食事を作る順番を手早く決めよっか」
「そうね。けど碧ちゃん、ミコトは料理つくれないわよ?」

 舞衣が食べる専門のミコトの頭を撫でながら言う。

「あ~、そっか。じゃあミコトちゃんは食事当番から外すとして。恭司くん、料理できる?」
「ええ、まぁ一応」

 一人暮らしをしていたことがある恭司は当然、自炊の経験がある。といっても、あまり手の込んだものは作れないし、味も保障しかねるものだが。

「うん。えっと……なつきちゃんは……?」
「え!? わ、私か!? いや、その……も、もちろん大丈夫だ」

 だったらその動揺っぷりは何だ、と言いたくなる。まぁそんな態度を見なくとも、皆なつきの料理の腕は知っていた。
 林間学校の飯盒炊飯で、なつきが火柱を上げさせたのは有名だし、恭司は実際に目撃している。

「え~……ミコトちゃんとなつきちゃん抜きで、三人か。ん~、五人分……ミコトちゃんがいるからもしかして六人分作るわけだし、一人じゃ、ね。二人ずつってことでどうかな?」

 碧の提案に、恭司と舞衣は頷いた。

「おい、なぜ私を抜かすんだ!? わざわざ訊いておいて。私は大丈夫だと言っただろう!」

 なつきは三人に言い放つ。そして彼女に返ってきたのは、三人分の疑わしげな視線だった。

「なつき、本当に大丈夫なのか?」
「っ、と当然――」
「無理するな」

 恭司が、なつきの頭に手を置いて軽く撫でると、なつきは言葉を引っ込めた。顔が少し、赤くなっている。――と、

「恭司」

 呼んで、ミコトが右腕に頭を摺り寄せてきた。

「っと」

 恭司はミコトの欲していることを察して、空いていた右手で彼女の頭を撫でてやる。

「……ん?」

 撫でながらミコトの嬉しそうな顔を見ていると、不意に視線を感じた。顔を上げ、その視線を送ってくる人物たちを見た。

「…………」

 舞衣が少し不満そうな顔をしていて、碧が 「いいな~、あたしも~」 という顔をしている。

「――さぁ夕食作りましょうか! 食事当番は俺からってことで。舞衣、手伝ってくれ」
「え、あ、うん」

 立ち上がり、キッチンへ向かう恭司。手伝いを頼まれた舞衣は、その後をついていった。
 ひとまず、今日の食事当番だけ決まったのだった。


 恭司と舞衣が料理を作り (途中、なぜか碧の介入があったが) 、賑やかな食事の後。恭司は、風呂に入っていた。

「ふー……」

 たっぷり溜まった風呂の湯で、一日の疲れを癒す。肩まで湯に浸かり、足を伸ばした。

(広いなぁ……)

 風呂を見た時と同じことを恭司は思った。
 実際、恭司が足を伸ばすところか、全身を湯に浸けたとしても浴槽に身体が当たることがないほど広い。

(これなら確かに四人くらい一斉にだって大丈夫か)

 恭司は、自分より先に風呂に入った四人のことを思い……、一気に耳まで赤くなった。

(何を考えてるんだ……)

 浮かんだ妄想をかき消すように頭を軽く振ると、恭司は立ち上がった。水音が小さく反響する。


 脱衣所で。
 恭司は、パジャマにしているラフなシャツを着て、最後に眼鏡をかけようと手を伸ばした。

「…………?」

 が、風呂に入る前、確かにここに入れた眼鏡に指先が触れることはなかった。近くを探してみるが、ない。
 恭司は裸眼だと全く見えないわけではないが、眼鏡があったほうが視界がハッキリするのは確かだ。
 それに、いつも身に着けているものがないと変な感じがするのだった。

「ホントにないな……」

 仕方なく、恭司はそのまま脱衣所を出た。鞄の中に予備のやつが入っていたはず、と思いながら――
 足が止まった。

「…………」

 それを目の当たりにして、恭司は頭を抱えたい気分になった。

「きゃーはっはっはっは!」

 部屋の中央では、碧が楽しそうに笑っている。彼女の手にはジョッキがあり、そのジョッキの中にはビールが溢れそうなほど注がれていた。
 もう一方の手には、恭司の眼鏡がある。

「だから私はヘタレなんかじゃ……」
「お~? 世界が回って見えるぞ~」

 碧の周りには、なつきもミコトもいた。両方、酒を飲んだようで顔が赤く、明らかに酔っているのが分かる。

「あ~、恭司くんだぁー。恭司くん、こっちこっち~」

 立ち尽くしている恭司に気づいた碧が、ぶんぶんと手を振る。その手には眼鏡があり、恭司は 『どっか飛ばさないでくれよ』 と思う。
 思うだけで動かない恭司に焦れた碧は、立ち上がって近づいていく。

「ほらほら~、せーっかく盛り上がってんだからさぁ、恭司くんも参加しなきゃダメでしょ~?」

 と言いつつ、碧はいきなり恭司の腕をホールドし、逃げられないようにしてから無理矢理恭司の口にビールを流し込んだ。

「…!? …………っ、ごほっ、ちょ……碧先生」

 かなり強引なやり方に恭司が声を上げるも空しく、碧は空っぽになったジョッキを満たしに元の場所へと戻っていく。

「恭司さん、大丈夫……?」

 声に、恭司が振り向けば、舞衣がキッチンから出てきたところだった。彼女の両手には、酒のつまみが盛られた皿がある。

「舞衣…無事だったのか……」
「え、うん。碧ちゃんにちょっと飲まされちゃったけどね。あたし、なつきやミコトよりはお酒強いみたいだから」

 言われて見れば、舞衣の顔も少し赤かった。
 碧先生、教え子 (未成年) に飲ませないで下さい、と後できつく言っておかなければと恭司は思う。その直後、

「恭司~」

 ミコトに抱きつかれた。ミコトは腹辺りに頭をこすり付けるようにして、恭司に甘える。と、

「気持ち悪い……」

 不穏な言葉がミコトの口から出た。瞬間、恭司と舞衣は慌てだす。

「恭司さん、これ持って! ミコト、こっちおいで」

 舞衣は両手に持っていた皿を恭司に押し付けると、ミコトを恭司から引き剥がして介抱し始めた。それに、恭司は安堵の息を吐いた。
 が、それも束の間だった。

「恭司」

 僅かに震えた声で、なつきが傍に来ていた。恭司が視線を向けると、濡れた瞳にぶつかった。
 赤く上気した頬 (酒のせい) 、遠慮がちに見上げる双眸が、扇情的に恭司の瞳に映る。

「恭司」

 もう一度、なつきが恭司の名を紡ぐ。恭司のシャツの裾をきゅっと握っていて、それがなつきの精一杯の甘えなのだろう。

「なつき……ぃた、って、碧先っ――」

 不意に後頭部に衝撃を受け、恭司は目の前にいるなつきに向かって倒れそうになった。
 それを慌てて回避し、振り向いて元凶に文句の一つでも、と思ったが、ビール瓶を口に突っ込まれて何も言えなかった。

「さぁさぁ今日は朝まで騒ぐぞー!」

 碧の叫びに、勘弁してほしい、と恭司はアルコールの回り始めを感じながら思った。



続く。
2008.10.02 Thu l SSネタ l COM(0) TB(0) l top ▲

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